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執筆者の写真金森 亨

外国為替相場推移と今後の為替動向判断材料(2019年12月末現在)

更新日:2020年3月4日

【米ドル】・・・対円

2019年12月は動きませんでした。

月初109円近辺で始まり、11日の108.55を月間安値に26日の109.60当りの月間高値の間を行ったり来たりする値幅の小さい動きでした。

12月25日付日経新聞によると、2019年度の値動きはわずか8.30円程度で2年連続で過去最少を更新する見通しだとのこと。結果として年末までこの調子だったので、「更新した」ということになります。

なぜこんなに動かないのかの説明として、同記事は

・各中銀ともB/Sや通貨供給量に差が生じにくい状況で、同じようなスタンスにあること

・日本の貿易黒字がかつてほど大きくないため円高圧力がかかりにくいこと

などがあげています。

FRBの利上げが、相対的な円金利を引き上げて円高を誘う可能性がありましたが、上旬のFOMCでは政策金利を据え置き、当面は利下げを見送るようです。実際、上旬に発表された米雇用統計では市場予想を大きく上回る好結果となり、米経済が変わらず堅調であることを示唆しています。利下げの理由が成り立ちません。

結局年末は108円台半ばで終わりました。

【ユーロ】・・・対米ドル

12月は買われました。

秋口の1.09水準から比べると比較的高い1.108近辺で始まりました。その後も何回か買われ、クリスマスの取引が薄い中一気に1.12台まで乗せました。

欧州中央銀行の政策スタンスはドラギ前総裁の方針が否定されることなく、大きな変更はありませんが、欧州経済が多少持ち直してきたこともあって、底堅さを見せています。米中貿易摩擦の交渉も課題を残しながらも妥協する兆しをみせたことも好影響を及ぼしています。

また、12日に行われた英国の総選挙では与党が大勝し、2020年1月末のEUからの離脱がほぼ確実になりましたが、ジョンソン首相が事前にEU側と交渉して一定の合意を見ており、その範囲で離脱するなら、短期的にはEUにとっても大きな打撃にはならないだろうと市場はみているのかもしれません。

結局、1.12台の高値圏で年末を越しました。

【今後の短期~長期予想】

 ドル円 ・・・

値幅の小さい動きが続いたとはいえ、微妙なバランスを保っているために表面化していないリスク材料がいくつかあります。

まず、米中貿易摩擦です。中国は長期戦も覚悟してすぐには大きな賭けにでることはないかもしれませんが、一方の米国にとっては大統領選挙までになんらかの成果を出す必要があるため焦っているはず。春・夏に思い切った戦略に打って出る時にリスクを回避の円逃避、円高となる可能性があります。

次に潜在的に膨らんでいる円投残高です。こんなにドル円相場が動かないと、将来にわたって為替変動リスクは低いままだろうという根拠のない安心感が蔓延し、円投によるヘッジ無しの外債投資や外貨投資が膨張していると見られます。個人の外貨預金も過去最高の7兆円規模になっているようです。こんな状況下、ひとたび相場が動く気配を見せると大きくポジション調整に動く可能性があります。円投は円安ですから、ポジション調整では円高になります。

なにもなければ、しばらくは値動きの小さい相場展開が続くが、そこにはリスクが潜んでいると認識しておいた方がいいでしょう。

ユーロドル ・・・

短期的には、英国のEU離脱が合意無き離脱にならず、条件が想定の範囲にはいってきていることから大きなダメージを受けずに済みそうです。

しかし、欧州経済が米中貿易摩擦の影響によって不安定になっていたことがユーロ売りの原因であったことを考慮すると、中期的には、やはりこの先の米中の交渉の行方がユーロを占うキーになるでしょう。ただし、ドル円でも書いたように、中国は長期戦の構えであるのに対して米国が大統領選挙を控えて何をしでかすかわからないというところが先行き不透明にしています。

長期的には、英国のEU離脱がEU体制にじわじわと悪影響をもたらすのではないでしょうか。はじめ豊かさを求めてEUに加盟した国も、次第に自国の政策上の自由度を取り戻そうとしています。離脱した英国のその後の経済的ダメージが予想より小さければ、「なんだ、うまくいけるじゃん」ということになって後に続く国が出てこないとも限りません。そうなったときのドミノ効果が心配です。そもそも財政を残したまま通貨だけを統合しようとした目論見が理論上正しいとは思えません。

【短期的な材料(1ヶ月前後)】

1. 米中貿易摩擦 :2018年12月G20閉幕後の米中条件付き合意事項の処理進展状況2. 米とイランの関係:緊張が続くなら円への逃避から円高。3. 英国のEU離脱(2020年1月期限)4. 米FOMCの金融政策方針の変化:7・9・10月の利下げ以降の利下げ停止見とおし5. 中国はじめ新興国の経済失速、株価動向→心理的な不安がリスク回避行動となり、円買いに流れる。6. 米国の主要経済指標:好調なら利下げ方針が続かず、ドル堅調。

【中期的な材料(数ヶ月)】

1. 米中貿易戦争や政治リスクの高まりに伴う世界景気減速懸念:懸念高まれば円買い材料に2. 米大型減税(2017/12可決)の効果による、米国への資金還流(多通貨からドル変換によりドル高材料となる)3. 円投による外債投資・外貨投資の積み上がり:相場動く気配により円高リスク。4. 米政府が注目する円の実質実効レートの動向 :貿易赤字解消を目的に米が割安円を指摘5. ユーロ圏経済の動向 :2019・20年成長率見通しは下方修正、弱いファンダメンタルズのほか、金融再緩和からもユーロ売り材料6. 米長期金利の動向 :米経済が堅調なら長期金利も安定し、ドル高円安要因となる

【長期的な材料(数年)】

1. トランプ政権の経済政策の好効果後の悪影響や反動(保護貿易によるコストプッシュインフレ、大型減税に財政圧迫)の相場への影響2. 好調な世界経済を背景に本邦貿易収支改善、対外直投蓄積による所得収支拡大で国際収支説から円高材料。逆に新興国からの資本逃避で景気後退して貿易収支悪化は円安材料。3. 独・仏政権の弱体化とEU統率力減退及び欧州各国アイデンティティ尊重思想の広がりがユーロ圏結束に及ぼす影響4. 英のEU離脱後の状況:経済的ダメージが予想より小さければEU体制に悪影響。5. 日本:貯蓄率低下・国債残高膨張による国債消化力低下⇒財政破綻⇒超インフレ(円安)。6. 本邦人口減少が進行するなら人口オーナスによるデフレ効果で円高(購買力平価説)

以上

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