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執筆者の写真金森 亨

外国為替相場推移と今後の為替動向判断材料(2020年7月末現在)

【米ドル】・・・対円

7月は月末にかけてドル安になりました。

月初107円台半ばで始まったあとは、ときおり106円台に割り込む場面がありながらも小さい動きに終止ていました。市中に供給されている潤沢な流動性のおかげで日米株式市場が堅調に推移ていることに、日米金利差縮小という円高要因がせめぎ合って均衡しているか、それともどちらかに動き出したいのに、思い切れないか・・・というところでしょうか。

それが、下旬になってドル売りが急激に進み、29日には約4ヶ月ぶりに104円台をつけました。材料となったのは、28~29日にかけて開催された米FOMCです。緩和維持が決定されたうえに、パウエルFRB議長が9月の会合で追加策を決定する可能性も示唆したのです。これによって当面の円高要因(日米金利差縮小)が再確認されたわけです。

月末にかけては少し戻し、105円台後半で月を超えました。

【ユーロ】・・・対米ドル

7月はどっと買われました。

月初1.12台前半で始まったあと、比較的堅調な経済指標などに加え、このところ弱含みであった相場観への調整買いなどがあったほか、欧州復興基金創設案への期待も加わって堅調に推移しました。

それが、21日のEU首脳会議において欧州復興基金の創設が承認されると、一気にユーロ買いが進み、1.19台もつけました。

月末にかけては多少戻し、1.18近辺で月を超えています。

【今後の短期~長期予想】

ドル円 ・・・

今後のドル円相場を予想する材料として注目すべきは以下の3つであると述べてきました。

① リスク回避先としての円買いはどうか。

② 流動性確保を目的としたドル買いはどうか。

③ 各国金融政策と金利動向はどうか。

①についは、リスク回避先としての価値は円もドルもあまり変わらないという状況になっています。むしろ、円は信用力に頼ったリスク回避先ではなく、積極投資の単なる巻き戻し結果であると理解しなければいけません。つまり、低金利の円を調達してこれをドルなどの通貨に換えて積極投資していた人々が、リスクが気になるとこれを巻き戻す行為にでるため円を買い戻すからというものでした。つまり安全な円に逃避するのではなくただ戻したというだけ。しかも、このことろの金利差縮小により円で調達する妙味が薄れています。なので、➀は今後、材料としては疑問。

②は、市中の潤沢な流動性のおかげで当面の分は確保されているようです。

そこで問題の③ですが、これが米28~29日のFOMです。緩和維持を決めたうえに次回の会合では追加緩和策の決定もありうるとしたわけですから、そのとおり緩和されて米金利が安くなると金利相場要因から円が買われるだろうというシナリオです。FOMCの緩和策決定動機がコロナウイルス対策であり、早期収束が難しいといわれていることから、この傾向は中期的には継続すると思われます。

その先、超長期では、各国の財政赤字不安た金融市場にどう跳ね返るかによるので、予想困難です。世界の公的債務が世界のGDPの10%を超え、20%になるときが心配だとするエコノミストも居ますが、日本の場合は20%どころではありませんね。中央銀行の財政ファイナンスが問題になって超インフレが起こるとすれば、日本がこれに一番近いといえます。

ユーロドル ・・・

21日のEU首脳会議での欧州復興基金創設承認は、EU体制維持にかかわるとても重大な事件です。

そもそもユーロが発足したときから、通貨は統合されたが財政が統合されなければEUが本当に統一された言えないといわれ続けてきました。経済政策は金融政策と財政政策の2つの柱で成り立っています。このうち金融政策は通貨が統一されたことで統合が成立していますが、財政は各国が裁量権を維持し続けています。

ギリシャが財政危機に陥った時やスペインやイタリアが困っているとき、ドイツやオランダなど北の国は自分たちの予算を彼らのために割くことに抵抗しました。EUの南北問題です。これがコロナを機に「ま、仕方ないか」ということで容認されようとしています。

復興基金は助成金と融資で構成されています。融資は借りるお金なのでいずれ返済しなければなりませんが、助成金は返す必要のないものです。取り立てた税金を使って救済するものですから、一国の財政裁量の範囲でしかできません。今回の復興基金は、一時的にせよ、EUが一つの国として財政を運用する機会を得たということですから大きな進歩です。

これがコロナ後も財政を共有する道を開くきっかけになるなら、EUの将来は明るく超長期ではユーロ通貨への信用力につながるものと考えます。

【短期的な材料(1ヶ月前後)】

1. 米FOMCの金融政策方針の変化:コロナウイス対策としての利下げ状況~金利差縮小から円高

2. 新型コロナウィルス対策からの経済再開 :流動性確保緊急性低下からドル売り、円など他通貨買い

3. 中国はじめ新興国の経済失速、株価動向→心理的な不安がリスク回避行動となり、円買いに流れる。

4. 新型コロナウイルス感染爆発によるドル流動性需要の高まり : リスク高いほどドル高

【中期的な材料(数ヶ月)】

1. 新型コロナウィルス感染拡大・収束状況:収束長引けば各国金融追加緩和で金利差縮小から円高。

2. 米大統領選挙:新大統領の経済政策に注目(貿易、財政など)

3. 米中貿易戦争や政治リスクの高まりに伴う世界景気減速懸念:懸念高まれば円買い材料に

4. 米政府が注目する円の実質実効レートの動向 :貿易赤字解消を目的に米が割安円を指摘

【長期的な材料(数年)】

1. 新型コロナウイルス終息後の国際経済相互依存リスク回避の動き:対外直接投資や貿易取引縮小し為替裁定取引縮小するため金利差等による投機行為が少なくなり、より実需に影響を受けるように。

2. 今後の政治情勢で、国際的な分断が進行するなら、貿易の委縮に伴って世界経済が停滞し、円キャリー取引巻き戻しによる円高

3. EU復興基金創設の成否:コロナ後のEU財政統合を占う大事な材料。

4. 本邦人口減少が進行するなら人口オーナスによるデフレ効果で円高(購買力平価説)

以上

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