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  • 執筆者の写真金森 亨

外国為替相場推移と今後の為替動向判断材料(2022年3月末現在)

【米ドル】・・・対円

3月は大きく円安になりました。

月初115円近辺で始まった後、2015年以来の円安水準である125円前半までドル高円安となりました。その材料はいくつもありますがまず、日米の金融政策スタンスの違いです。

① 16日の米FOMC(米連邦公開市場委員会)で具体的に利上げが決まった。

② 18日の日銀金融政策決定会合は緩和方針変更せず、その後の黒田総裁の会見でも緩和措置の継続姿勢と円安を容認する内容であったこと。

③ 21日にパウエル米FRB議長が利上げ幅を拡大する旨の発言を行ったこと。

米FRBは利上げ、日銀は緩和継続と明確に分かれ、日米金利差拡大がはっきりしていることから、金利の高い通貨が変われるという金利相場一色になりました。

極め付きは、日銀の指値オペです。10年物国債利回りが政策上限の0.25%をヒットした28日に行われました。これによって一気に125.10の円安値を付けたのです。

その後は121円台半ばまで戻して月末を超しました。


【ユーロ】・・・対米ドル

3月は底を這いました。

2021年春~夏にかけてピーク(1.22台)だったユーロ(対米ドル)はどんどん下がって、2019年夏の水準(1.09ほど)近くになっています。

その大きな流れの中で、3月は1.1前後の当面の底を這いまわったまま終わりました。

要因は2つあり、1つはドル円同様、欧米の金融政策スタンスの違い。もう1つはウクライナ情勢です。

欧米金融政策スタンスは、日米ほどではありません。3月10日の欧州中央銀行(ECB)理事会では多少タカ派的(緩和策の出口を示唆)ではありましたが、明確に利上げを謳いその幅も拡大するとする米FRBと比べるとまだまだハト派です。

もう1つのウクライナ情勢は、エネルギーの多くをロシアに依存しているユーロ圏経済に大きく影響しています。PMI、消費者信頼感指数などユーロ圏経済指標は悪く、ファンダメンタルズ要素でユーロ売りにつながっています。

また、有事の際のリスクオフでは円買いが良く知られていますが、本当の有事ではやはり米ドルが大事。今は有事のドル買いがこれに拍車をかけてユーロ売りを誘っているようです。月初は1.12台前半で始まり、月中は上旬の1.08台半ばを底値として、月末近くに1.11台半ばまで戻しましたが結局1.10台半ばで月末を超えています。


【今後の短期~長期予想】

ドル円 ・・・

上記3月の状況で説明した日米の金融政策方針の違いについて、はどちらかというと市場はこれを短期的に捉えて動きました。米ドルの金利は上昇するが、円の金利は低いままだであるから、金利差の分だけ為替相場が開くという捉え方です。

例えば、6ヶ月の資金運用に当たって高い金利を選好するから高金利通貨を買う実需が発生する。市場はケインズの美人投票よろしくこぞってそちらへ流れるという具合です。ではもっと先は何を材料に動くかというと、経常収支です。その中でも貿易収支は中長期のなかでも中期的、所得収支はより長期的な材料として捉えられます。

貿易収支は、米ドルで輸出すると代金を円に転換するのでドル安円高。したがって、貿易収支黒字では円高、赤字では円安。近時、資源価格高騰などから本邦貿易収支は赤字なので中期では円安に振れると予想できます。

一方の所得収支は対外投資の配当や投資利益などで短期的には米ドルのまま再投資に使われるため、為替への影響はありません。しかし、中長期ではいずれ国内に還流させる必要があるので、その時期(長期)にはドル売り円買いで円高。近時、本邦所得収支は大幅黒字なので長期ではドル安円高と予測できます。

さらに超長期では購買力平価に収斂します。

短期は数ヶ月、中期は1~5年、長期は3~10年、超長期は5年以上かな。


ユーロドル ・・・

当面はウクライナ情勢を材料に、底を這いまわる展開が続くでしょう。

米欧の金融政策スタンスの違いはどうかということになると、タカ派的な発言はするものの、ウクライナ情勢の影響の方が相場に与える影響としては圧倒的に強いと言わざるを得ません。ウクライナ情勢が不透明なうちはユーロが値を回復する場面はなさそうです。

停戦交渉が双方主張の隔たりから進みそうにありません。そもそも適当な妥協は、ロシアの軍事的侵攻が一定の成果をもたらしたという評価になりますから、味をしめたロシアは将来にわたってこの手法を放棄しないだろうという判断になります。そうなると超長期にわたるユーロ圏の構造的なリスクが定着し、ユーロ通貨への信用も揺らぐでしょう。

妥協するかしないか、ロシアが構造的に他への軍事侵攻を放棄する体質に変わってウクライナ問題が終結するのかによってその後の為替予想が大きく変わります。現状はでそこはまだ見えていません。


【短期的な材料(1ヶ月前後)】

1. ウクライナ情勢:長引くとエネルギーを依存するユーロにとって売り材料、資源高を通して円にも売り圧力。

2. 米FOMCの金融政策:利上げ実施状況と大胆な利上げ幅調整が、円売り圧力・ユーロ売り圧力になる。

3. 米経済指標 :大規模な利上げに耐えられるか。不安あれば米ドル売り。

4. コロナのオミクロン株による感染再拡大:まだ不透明だが経済への影響が大きいとリスク回避の円買い。但し以前ほど円のリスク回避機能は働かない。


【中期的な材料(数ヶ月)】

1. ウクライナ情勢 :終結の形によっては、中期的にも影響。

2. 本邦経常収支:特に貿易収支の悪化は中期的な円売り圧力。

3. 米インフレ対応状況と米経済指標 :利上げ頻度と利上げ幅の判断の一つとして注目。

4. 原油価格とOPECの生産方針 :現状の各国経済の下押し要因の一つとして注目。増産に応じるなら中期相場に影響。

5. 日銀総裁の任期到来と、その後の金融政策スタンス:現状の異次元緩和策を収束させるなら、円買い。


【長期的な材料(数年)】

1. ウクライナ情勢 :妥協と伴うかロシア経済破綻か終結がの形によっては、長期に影響。

2. 日銀総裁の任期到来と、その後の金融政策スタンス:現状の異次元緩和策を収束させるなら、円買い。

3. コロナ後の環境変化:グローバル化修正、産業構造の変化、対中デカップリングなどに注意。

4. 米中新冷戦や経済安全保障への懸念による調達網再編に伴う貿易停滞や世界景気減速懸念:長期では日本経済停滞し円安材料(短中期では異なる)

5. 日本:貯蓄率低下・国債残高膨張による国債消化力低下⇒財政破綻⇒超インフレ(円安)。

6. 本邦人口減少が進行するなら人口オーナスによるデフレ効果で円高(購買力平価説)


以上

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