【プロは逆張りではない】
しばらく110円近辺で動いていたドル円相場、先月中下旬に112円台までドルが買われた後下落しはじめ、昨日(2020.03.09)は急落(円の急騰)して東京市場でもNY市場で101円台をつけました。
相場の世界、素人は逆張り(安値で買いを入れる)しますが、プロはその逆です。つまり、下落しているときは売り続けるのです。なので、一気に101円台までドルが急落しました。そのままだと底なし沼ですが、市場には一定の抵抗線があります。そこで下落の勢いに変化の兆しが出ると利食いの買いを入れるのです。相場は市場参加者が動かしているので、相場は市場に聞けとよく言われます。
【でも相場は理論値に着地する】
じゃあ、為替相場は市場参加者の思いだけで決まるのかというとそうではありません。最終着地点は理論で決まります。もちろん市場参加者はそれを知っていますから、理論を意識しています。ただ、短期的には理論に先行して市場参加者の思惑で動くので、短期利益追求者は理論より思惑を優先しているのです。
逆に長期~超長期には理論に着地します。最終的には、市場参加者の思惑よりその通貨への需給の方が影響力があるからです。
【短期はヘッジ、長期は予測】
短期では思惑の影響が強く、思惑は相場を動かす材料をどう解釈するかによるので、よくわかりません。為替リスクを避けたいなら、あまり無理せずに、素直にヘッジするのがいいでしょう。
1年以内の短期のヘッジ(カバー)方法は「先物為替予約」が一番。なにも複雑なデリバティブを使う必要は全くありません。でも1年を超える先については出会いが少ないので簡単ではありません。その場合はスワップを組み込んだヘッジ商品がいいでしょう。
【相場を決める理論とは】
では長期~超長期はどうすればいいのでしょう。それは相場を予測するのです。参考にする理論は下の3つです。
➀ 金利平価
② 国際収支
③ 購買力平価
【金利平価】
両通貨の金利水準に見合うように相場が着地するというものです。その理屈はこうです。仮に、円の金利が年率1%、ドルは2%とし、ドル円相場が1ドル=100円に固定されていたらどうなるか。みんな1%で円資金を調達してドル資金に換え、2%て運用した1年後に再び円に交換しようとするでしょう。みんな円を売ってドルを買うので円安ドル高になります。
そして、1ドル=101円になると、2%運用後の元利合計1.02ドル円に交換しても、102円となり、円のまま1%で運用したのと利息が変わらないので、みんなの動きは止まります(厳密には利率で計算した儲けは少し違います)。ドルで運用するのと円のまま運用するのとで利率が同じになるまで、相場が動き、同じになったところで均衡するのです。因みに円を外貨に交換する行為を「円投」といいます。円資金と投ずるという意味です。
【国際収支】
日本国内の企業が米国にモノを輸出し、その代金をドルでもらうなら、いずれそれを円に交換するでしょう。だから、輸出が増えて貿易収支の黒字が貯まると、ドル売り円買いが進んで、円高になります。
ドル建てではなく円建てならそうならないのではないか。いえいえやっぱり円高になります。その仕組みはこうです。円建てで輸出する場合、日本の企業は円に交換する必要がありませんが、その代り米側の輸入者がドルを売って円を買います。円で支払わなければならないからです。
【購買力平価】
貨幣の価値は、それで何が買えるかで決まります。仮に、マクドナルトのハンバーガー1つを、円なら100円で、ドルなら1ドルで買えるなら、ドル円の為替レートは1ドル=100円であるべきです。そんなとき、現実の為替相場が1ドル=200円ならどうでしょう。円を持っている人はハンバーガーを2個買えるのに、ドルを持っている人は1個しか買えないという状況になってなってしまいます。ドルを持っている人はみんな手持ちのドルを売って円に換えようとするでしょう。ドル売り円買いです。その動きは相場が1ドル=100円になるまで続くはずです。
【理論の適用順序】
「金利平価」は主に短期~中期、「国際収支」は中期~長期、「購買力平価」は長期~超長期の相場予想に力を発揮します。
【政治や政策はどう関わるのか】
為替相場はときに政治や政策で動くことがあります。しかし、為替相場に直接作用して動かすというより、上で述べた理論を経て相場に影響すると捉えた方が納得できる説明ができます。
米国の金融当局が金融緩和策を講じて金利を下げる場合は、「金利平価」により、ドルが売られて円が買われるという具合です。しかし、金緩和が奏功して経済が活発になると、モノへの需要が伸びて輸入が増えます(どうしてそうなるかは多少専門的なので省略)。すると今度は、同じドル売りでも「国際収支」で説明できるようになります。
トランプ政権が大幅減税すると財政を圧迫して、金利が上昇する可能性があります。政府の資金調達が増えて民間の資金需要を満たさなくなって資金の需給関係から金利が高騰するのです。すると短期的には「金利平価」からドル高になりますが、減税による経済回復が進んでモノへの需要が活発になるとインフレが進行し、今度は「購買力平価」からドル安に反転するというわけです。
【今の円急騰はどこまでか】
では、ここ数日の円急騰はどう説明がつくのでしょうか。一般には、世界経済後退への懸念からリスクオフ姿勢(活発に経済活動を行わず投資を控えておこうという姿勢)になり、比較的安全と言われる円に資金が集まるから、円高になっているという風に説明されます。新聞にもそう書いてありました。安全通貨に逃避する行為は確かに合理的で、実際、それで相場が動いています。
しかし、それは一時的に資金を逃避させているに過ぎません。不安が少し収まると、経済活動は絶やすわけにはいきませんので、すぐに資金は逃避先からとり戻されるはずです。
すると円が売られ、ほどなくドル円相場は理論が説明する最終着地点を目指して均衡に向かいます。
【目座す着地点は購買力平価】
しかし、その着地点が円急騰前の110円前後かというと、それは疑問です。理論の適用順序は、「金利平価→国際収支→購買力平価」と書きました。最終的には購買力がバランスする点が着地点です。日本と米国の物価指数を変動相場制に移行した1970年代前半から並べて試算すると購買力平価によるドル円相場の落ち着き先は90円台じゃないだろうかと私は思っています。
まとめると、この円急騰は気のせい、金利差への着目は一時の気の迷い、貿易収支は経過観察、為替相場は結局両国の購買力平価に落ち着く・・・と。
以上
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