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  • 執筆者の写真金森 亨

外国為替相場推移と今後の為替動向判断材料(2022年5月末現在)

【米ドル】・・・対円

5月は少し緩みました。

月初130円で始まった後、米長期金利が上昇して日米金利差が広がり、131台半ば近くまでドル高(円安)になりました。

しかし、その後は下旬にかけて126円台半ばまで戻りました。背景には米消費者物価指数の発表があります。もともと、日米金利差が開いてドル高(円安)が進んだ原因は米FRBがインフレ対策として金利を引き上げにかかったからですが、この状況下、物価指数の発表で少しだけインフレ率が落ち着いた傾向と見せたため、FRBの利上げ圧力も少し和らぐのではないかと市場がみたのです。

月末にかけて少し戻し、128円台で月末を超えています。

なお、この記事を執筆している現在は、先週5月6日(金曜)に発表された米雇用統計が市場予想に比べて良好だったのでFRBの引き締めはやっぱり変わらないだろうとの見方から132を突破するドル高(円安)になっています。


【ユーロ】・・・対米ドル

5月は後半に少しユーロが買われました。

月初は1.05台半ばで始まったあと、フィンランドやスウェーデンのNATO加盟動向による政治リスクの高まりから敬遠されたユーロが売られ、1.03台半ばまで下落しました。

しかし、月半ばからは、諸所の発言から欧州中央銀行(ECB)のインフレ対応方針が次第に明確になり、米欧金利差が縮小するとの見方が強まり、1.07台まで値を戻し、結局、1.06台半ばで月末を超えました。


【今後の短期~長期予想】

ドル円 ・・・



図は日経新聞WEB版に掲載されたドル円相場の過去5年間の推移グラフです。ここ数ヶ月で随分とドル高円安が進んだものです。背景には

a. 日米金利差:米FRBが引き締め、日銀は緩和方針なので高金利に資金が流れる。

b. 貿易赤字:ウクライナ侵攻でエネルギー価格高騰して貿易赤字拡大すると実需のドル買いが増える。

c. 投機行為:上の材料を見越した投機筋が円売り持ちを膨らませている。

があります。このうち、「c.」はいずれ巻き戻されるので短期要因。「a.」は日本のインフレ率は欧米に比べて圧倒的に低いので、しばらくは日銀とFRBのスタンスに変化がないとみるので中期的な要因。

これに対して、「b.」はちょっとやっかいです。ウクライナ紛争の長期化を見込まれている上に、これが収束してもその後の経済安全保障確保からエネルギー価格の高止まりはなかなか収まらないと思うからです。国際収支説によれば貿易赤字は円安要因です。




ユーロドル ・・・

欧州のインフレ率は高く、6月9日に予定されている欧州中央銀行(ECB)理事会では7月利上げを含め、米FRBに続いて金融引き締め方針が打ち出される可能性があることから、短期的には米ドルに対して値を戻す動きが続きそうです。

しかし、ユーロには他に下記のような弱い材料があります。

a. ウクライナ侵攻に伴う経済安全保障上の問題 :日本もそうですが、エネルギーコスト高騰から貿易赤字が拡大し、実需面からユーロが売られるリスクがある。

b. ウクライナ侵攻に伴う政治リスク :その通貨の流通力が確保されるためには、経済力だけでなく政治的に安定しなければなりませんが対ロシア不安材料のほか、EU内の結束力にもほころびが見え始めています。

そして、どちらかというと金利材料は短期、上の「a.」「b.」は中長期的な材料なので、短期的にはユーロ堅調だか、中長期では弱含む可能性が高いと予想します。


【短期的な材料(1ヶ月前後)】

1. ウクライナ情勢:長引くとエネルギーを依存するユーロにとって売り材料、資源高を通して円にも売り圧力。

2. 米FOMCの金融政策:利上げ実施状況と大胆な利上げ幅調整が、円売り圧力・ユーロ売り圧力になる。

3. 米経済指標 :雇用統計などから米経済が大規模な利上げに耐えられるか判断。不安あれば米ドル売り。


【中期的な材料(数ヶ月)】

1. ウクライナ情勢 :終結の形によっては、中期的にも影響。

2. 貿易収支:エネルギー価格高騰して高値にとどまるなら、円やユーロの売り材料。

3. 米インフレ対応状況と米経済指標 :利上げ頻度と利上げ幅の判断の一つとして注目。

4. 原油価格とOPECの生産方針 :現状の各国経済の下押し要因の一つとして注目。増産に応じるなら中期相場に影響。

5. 日銀総裁の任期到来と、その後の金融政策スタンス:現状の異次元緩和策を収束させるなら、円買い。


【長期的な材料(数年)】

1. ウクライナ情勢 :妥協と伴うかロシア経済破綻か終結がの形によっては、長期に影響。

2. 日銀総裁の任期到来と、その後の金融政策スタンス:現状の異次元緩和策を収束させるなら、円買い。

3. コロナ後の環境変化:グローバル化修正、産業構造の変化、対中デカップリングなどに注意。

4. 米中新冷戦や経済安全保障への懸念による調達網再編に伴う貿易停滞や世界景気減速懸念:長期では日本経済停滞し円安材料(短中期では異なる)

5. 日本:貯蓄率低下・国債残高膨張による国債消化力低下⇒財政破綻⇒超インフレ(円安)。

6. 本邦人口減少が進行するなら人口オーナスによるデフレ効果で円高(購買力平価説)


以上


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